●荒川水系渓流保存会会報 第12号 編集責任 黒沢和義 吉瀬 総 10月末から11月にかけて採卵・受精したイワナは、現在のところ、おおむね順調に生育しています。 飼育池の飼育環境は、発眼初期に水温がやや高めですが、その後は低温で推移するので、まずまずいい環境だといえそうです。 にもかかわらず、発眼にいたらず、死んでしまう卵が、昨年同様、かなり多数にのぼりました。 採卵した卵の3割程度は、発眼しなかったのではないかと思われます。 この原因については、昨年暮れに、栃木県水産試験場を訪問し、細かな技術指導をいただいてきました。 発眼せずに死んでいく卵は、未受精卵だそうです。 未受精卵ができる原因は、卵と精子の質に問題があるからです。 親魚が抱卵する時期から採卵までの栄養管理に気を使うことによって、卵の質の向上を図る必要があります。 また、採卵時に、等調液(本会では食塩水を使っている)による洗浄を、もっとていねいにおこない、血液や糞などを完全に洗い流す必要があるとのことです。 精子は、親魚によっては受精能力のないもの(精子の活動不能)もいるので、採精時に顕微鏡で点検するか、受精前に数匹の親魚の精子を混合して、受精の確率を高めるようにしなければなりません。 また、尿などの不純物が混ざらないよう、卵に精子を直接かけるのではなく、純度の高い良質な精子を別の容器に取り置き、数匹分を混合したのち、卵にかけるべきとのことでした。 以上の点を改善することによって、来年は、さらに受精率を高めることができるのではないかと思います。 末受精卵は、順次、死んでいきます。 その死卵にはカビが生え、そのカビが健全な卵に伝染します。 今年は、カビ防止のために、薬剤による消毒をおこなったのですが、わたしの見たところでは、大きな効果はなかったように思います。 11月中旬から12月にかけては、毎週のように、死卵の除去に追われました。 これはかなり、たいへんな作業です。 一方、発眼した卵は、12月中旬以降、孵化しはじめました。 孵化を早めるには、水温などによる刺激があった方がよいようですが、自宅の水槽に発眼卵を持ち帰って育てておられる方にうかがうと、やはり、自然の状態に近い低温でじっくり孵化するのを待った方が、のちの生育がよいようです。 今年は、埼玉県水産試験支所熊谷試験地から、稚魚の餌づけ用の水槽をお借りすることができました。 そこでイワナの一部は、従来のシンクではなく、この餌づけ槽に孵化盆を設置して、孵化させました。 孵化した稚魚は、年明け以降、少しずつ、活動しはじめていますので、孵化盆から出して、餌づけ槽に解放しました。 一定数の死魚は出ていますが、今のところ、特に問題なく生育しています。 これから、難関の餌づけにさしかかります。 すでに、餌を与えていますが、昨年は今の時期から3月ごろにかけて、ほとんど就餌せず、したがって生育しないで死んだものが多数出ました。 イワナの場合、ヤマメとちがって、人間の与える餌に慣らすのが、たいへん困難なのです。 今年は、いろいろと工夫して、餌を食べさせ、試験放流ができるまでに育てたいと願っています。 お手すきの際には、池の方へもお運び下さい。
栃木県水産試験場訪問 須崎 武男 12月25日 横手さん、吉瀬さん、須崎の3人で栃木県水産試験場を訪問し、次のことについてご指導いただきました。 (1)ニッコウイワナの特徴について 河川により特徴が異なる。栃木のイワナはオレンジ斑がうすい。 (2)産卵床の造成について 資料もいただき産卵床の造成に自信がもてる。 (3)イワナの飼育方法について 透明感のある黄色い卵は、未受精卵であり、採卵後の卵洗いが不十分であった。 施設も見学させていただきました。ほとんどの作業が屋内でできるようになっていました。たいへんていねいに説明していただきました。また、事前に連絡をとっていただいた、熊谷試験地の大倉さんにも感謝しています。
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