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 荒川水系渓流保存会 会報 第7号 (2000年)
●総会の報告 ●秩父在来イワナの調査 ●秩父イワナ序説
●荒川水系渓流保存会会報 第7号  編集責任 黒沢和義

イワナの保護を目指す
                     −総会の報告−
                                          須崎武男


総会では主に次のことが話し合われました。

 《ヤマメからイワナに》
ヤマメの採卵・飼育をやめ、イワナに切り替えます。
現在 イワナ2年魚−50匹 イワナ1年魚700匹 ヤマメ1年魚−数千匹ヤマメ稚魚−数千〜1万匹 これはおよその数です。
成魚は、池の大きさから多くても500匹ほどしか飼えません。そのためイワナだけでいっぱいになってしまいます。そこで、ヤマメは放流等に当て、イワナの飼育に専念します。

《イワナの保護・調査》
以前にもお願いしたことですが、イワナの放流場所の選定や保護活動のためにイワナの棲息域の調査をしていきます。今年からは、大村さんに協力することも考えています。秩父のイワナについて知識を深めましょう。

《補助金の申請》
会の運営は、赤字になることはありませんが、余裕があるともいえません。そこで、補助金申請も行っていきます。場合によっては、ヤマメを餌代にすることも考えます。よい補助金がもらえる話がありましたらお知らせください。
≪メールアドレス≫
会員の申込用紙にメールアドレス欄をもうけました。採卵等の連絡ができればと思います。

《事業計画》
ヤマメの放流、イワナの調査、親睦会(釣り大会・ヤマメの成育状況による)、イワナの採卵、第5週の日曜日研修会詳しい日程等は、次回の会報でお知らせします。


ヤマメの放流 4月23日(日)10時  
成魚も放流するかもしれません。


秩父在来イワナに関する調査について
                                          大村和也
1.はじめに
 平成8年度の文部省科学研究費補助金(奨励研究(B))交付を機会に森林と渓流魚の関係、特に荒川源流部に生息するイワナの食性について調査を開始し、現在もサンプルを採取し継続しているところです。またその一方で、以前より私の問題意識の中に在来種の減少に対する何らかの手だてがほしいというものがありました。この度、秩父在来イワナを保護することを目的に関連の調査を始めたいと考えています。
2.在来イワナとは
地域の貴重な個体群−−−在来種イワナは我が国においてはアメマス(エゾイワナ)、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、キリクチ、ゴギの系統があり、秩父地方に生息するニッコウ系イワナにおいても着色斑点の相違など、その地方特有の姿をしている。
山村文化−−−古くから山奥に暮らす人間とも深く関わりがあり、山村文化を示す一つの存在でもある。先人の放流による生息場所の拡大(生業等)。
3.なぜ、個体数が減少しているのか
 ・生息場所の特性と悪化、減少−−−生息場所は山岳渓流という限られた地域である。
 ・捕獲−−−捕獲圧等。     森林の伐採、水資源の開発、道路の整備など。
4.どうすれば減少を止められるか
 ・生息環境の再生と保護(河川をはじめ渓畔林、周辺森林)−−−森林等所有者の理解。
 ・捕獲の関する規制−−−−−−−捕獲の権利(漁業権)は漁業協同組合にある。
5.関連組織への働きかけ
 ・東大演習林として学術的見地から国有林、県、漁協等に提案−−−データが必要
6.調査事項
 ・秩父在来イワナの歴史および写真撮影等による容姿特徴の調査−−−協同調査
 ・DNA分析−−−県水産試験場熊谷支場との連携(現在、打診中)
 ・真の沢における現存量と入漁者数・捕獲量の調査−−−協同調査
 ・渓畔林の再生に関する研究−−−協同研究
7.考えていること
 「種の保存、そして渓流魚たちとの共生」を掲げ、荒川最源流部真の沢に生息する秩父在来イワナを 周辺の森林(森林生物遺伝資源保存林)と共に自然生態系を構成する生物の遺伝資源および山村文化を指標する生物として保護し、後世に残す。また、その下流域においても渓流魚との共生を目指す。人々が原生の森林、在来の渓流魚に触れ、その素晴らしさを知ることで、また次世代へと継承されることを願う。
 森林生物遺伝資源保存林とは−−−国有林で森林と一帯になって自然生態系を構成する生物の遺伝資源を森林生態系内に保存し将来の利用可能性に資する森林(秩父山地保存林は甲武信岳周辺の原生林、面積約2、100ha、平成9年3月設定。


     秩父イワナ序説
                                        吉瀬 総
1,イワナをめぐる思想
 秩父におけるイワナの保護というのは、大変大きなテーマである。
どうやってイワナを保護するのかという問題にはいる以前に、整理しておかなければならない重要な問題がいくつか存在する。
その最たるものは、荒川源流域に生息するイワナの定義づけである。

 種としてのイワナの定義づけは、ほほ確定していると思われる。
しかし、イワナの定義は、種として定義しただけではすまされない、複雑で、重要な問題を含有している。

 空間を生活圏とする多くの動物・植物にとって、ある地点からある地点へ生息地を移動することは、難易の差はあれ、不可能ではない。
海水を生活圏とする動物・植物にも、ほぼ同様のことが言えよう。
しかし、イワナの生活圏は、急峻な山岳渓流という、きわめて狭く、かつ閉じられた世界である。

 彼らが呼吸する渓流の水は、水源の森の地質や樹相によって規定されるから、じつに多様である。また、彼らが主たる食餌とする、水生昆虫や雑多な小動物の生息状況も、同様である。イワナは、きわめて多様な環境を有する限定的な小世界で、長年にわたって生活するなかで、後述のように、それぞれの地域ごとに独特の形態差を生ぜしめた。それらの地域的形態差を、どのように受け止めるか。

 けわしい山岳渓流に生息するイワナは、人為とはもっとも隔たったところに生息する魚であるように見えるが、じつはそうでもない。他のサケ科魚類同様、イワナは、東北地方以北の冷水城では、降海する。東日本以西に棲むイワナは、第四間氷期到来以降の地球温暖化にともない、陸封されたものである。

 現在のイワナ生息域は、陸封時のそれより、はるかに拡大している。
その原因は、山村住民、なかでも炭焼き・木地師・樹木の盗伐人など、原生林の奥深くをなりわいの場としていた人々が、自分たちにとって、きわめて重要な蛋白源であったイワナ・ヤマメなどの渓流魚の生息範囲を、放流によって拡大したことにある。こうして、イワナが元来生息しなかった支流や、自然の遡上が不可能な滝上などにも、イワナが生息するようになった。

 魚の運搬手段が発達していなかった時代には、尾根を越えて別の水系に放流することは、まず不可能だから、このような放流は、たんに当該水系の在来イワナ(以後ネイティブと呼ぶ)生息域を拡大するものであり、水系の生態系に与える影響は、微少であった。

 ところが、戦後、イワナ養殖技術が確立し、自動車や冷水・酸素補給装置など魚の運搬手段が普及したことにより、水系を越えたイワナの放流が可能になった。このことによってイワナは、内水面漁業の対象魚としての地位を本格的に確立できたが、別の水系の種苗によって生産されたイワナが放流されることによって、ネイティブの生存がおびやかされることになった。

 先にも述べたように、日本のいわゆるイワナは、地域的形態差はあっても、種としては、同一だというのが、現段階における一般的な見解である。したがって、ネイティブイワナの棲む渓流に他の水系のイワナを放流しても、生態系を攪乱することにはならないという意見には、一定の正当性がなくはない。また漁業権は、生活権の一環をなす権利であり、保障されなければならないのは当然である。
しかし、氷河期以来、その地に住み続けてきたネイティブは、守られなくてもよいのであろうか。

 荒川源流には、いかにも秩父らしい、美しいイワナが生息する。その美しさは、他の水系のイワナとは微妙に異なっている。
この差異は、とるに足らないものなのであろうか。

 この小論を展開するにあたって、筆者はまず、秩父ネイティブの擁護者としての自らの立場を明らかにしておく。筆者がネイティブを擁護したい理由のひとつは、秩父ネイティブのイワナは、奥秩父・荒川源流独特の地質と植生にはぐくまれたイワナであることであり、もうひとつは、このイワナたちが、自然に対して謙虚でありながら嶮しい斜面で誇り高き人生を刻んできた、秩父の先人とともに生きてきた魚だからである。

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