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 秩父ヤマメ採卵 (1996年10月20日)

 10月20日 快晴 秩父の山々はまだ紅葉が始まったばかり、生川の渓谷もチラホラ紅葉が見られる程度でまだ緑が深い。真夏にオスとメスに分けられたヤマメ達は今は隔たりも無く、一群れになって泳いでいる。いずれも体側にブナが入り、まるで遡上する鮭のような色になっている。特にオスヤマメはそれが顕著なのと鼻がはっきりと曲がっているのが分かって、やはり鮭科の魚なんだと納得させられる。

 採卵は10時から始まった。秩父の環境保護団体の人達が取材に来ている。ビデオを持ち込んで本格的な取材だ、思わず私はハジの方へ寄ってしまった。作業はまず池の魚をオスメスに分け、作業場の水槽に移すことから始まった。この作業に約1時間くらいかかり、水槽にはヤマメ達が静かに重なり合っている。


採卵を前にしたヤマメが
池でゆったりと泳いでいる。

水槽に入れられたメスヤマメ

ベビーバスに入れられたメスヤマメ

採卵台、下のステンレス網で卵を受ける
 メスヤマメが何尾かベビーバスの麻酔液に入れられる、しばらくすると腹を横にしておとなしくなる。この麻酔液は水産試験場から分けてもらったもので、市販はされていない。麻酔液に浸けるのは、魚が採卵時に暴れないようにするためと、体の水分をしっかり拭う必要がある為である。

 タオルで水分を拭きとられたメスヤマメは採卵台にかけられ、腹から卵が取り出される。卵は1尾のヤマメから約500〜600粒採卵され、今日一日で約2万5千から3万粒の卵が採卵される予定だ。卵の色はイクラのように赤くなく、黄色く透き通ったビーズ玉のような色でとてもきれいだ。採卵すると同時に体液と同じ濃度に調節された塩水の中に入れられる。

 水分をしっかり拭き取ること、塩水の中に卵を入れることは受精と大きく関係する。卵と精子が混ざっただけでは受精せず、そこに水が加わった時初めて受精するメカニズムになっている。だから水分をキチンと拭き取っておかないと大変なことになる。均一に受精させる為に水分厳禁で作業は進められる。


卵はあふれるように飛び出す

まとまったらオスの精子が掛けられる

その卵に水が加えられ、受精する
 塩水に入れられた卵が一定の量になるとオスヤマメの登場。2〜3尾のオスヤマメから精子を絞り出して卵にかけ、柔らかい鳥の羽根で全体をそっと撹拌する。オスヤマメは強い稚魚が生まれるようなるべく立派な個体を選ぶ、精子を使われないで終わる悲しいオスも多い。精子をかけられた卵に水を加える、この瞬間に受精が完了する。 

 受精卵はすぐバットに広げられ、未受精卵の選別作業に入る。未受精卵は透明ではなく、白くなっているのですぐに分かる。ピンセットでそっとつぶさないようにバットの外に出す、神経を使う細かい作業だ。未受精卵を取り除かれた受精卵はバケツのような容器に入れられこれから発眼、フ化を目指すことになる。もちろんそのバケツ状の容器には生川の水が循環するようになっていることは言うまでもない。


羽根でそっとバットの上に広げられる

未受精卵の取り除き作業
卵をつぶさないよう慎重に

この中に3万粒の卵がある
 採卵作業は1時間くらいで終わり、次はプールの清掃。一年分の汚れとヘドロを取り除き、来年の採卵用に稚魚を入れる前の清掃である。渓流の水を流しているとは言えヘドロは溜まる、魚を入れてからの清掃は魚にダメージを与えるので、今キチンと清掃をしなくてはならない。

 終了後全員に缶ビールが配られ、雑談に花が咲く。これから、水温にもよるが約一ヵ月で受精卵は発眼卵となり、その後約一ヵ月でフ化することになる。フ化して一ヵ月くらいで餌を食べるようになるが、餌を食べ始める事が出来るかどうかが重要なポイントだと言う。口を使うことの出来ない個体もあり、時期も個体によって違うので、餌は早めに与えるようにするのだと言う。時期を間違うと多くの稚魚を死なせてしまう事になるので、1月中は神経を使うそうだ。

 今、三万粒の受精卵は静かに容器の中で眠っている・・・・。


作業が終わって談笑する会員の皆さん

会三役、須崎さん、久保さん、新井さん
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